社務日誌(ブログ)

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天災と神社

権禰宜 小野雄生

東日本大震災
東日本大震災

今年の四月十四日に熊本で震度七を観測する大きな地震が起こりました。今回の地震は震源が広範囲にわたり、余震も多かったことから、長期間にわたって避難所で不安な日々を過ごさなければならない方も数多くおれらます。そうした皆様に心からお見舞いを申し上げたいと思います。

日本の自然は、優しくて厳しいといわれます。四季がはっきりとしたわが国は一年を通して過ごしやすく、自然は多くの恵みを私たちにもたらしてくれます。しかしその一方、台風の通り道で、大きな四つのプレートが地下で重なり合う日本列島は、台風をはじめ地震や火山、津浪など災害が多発する危険な国でもあります。

古来、天災や疫病(えきびょう)、飢饉(ききん)は、神の「たたり」と考えられて恐れられてきました。そして災害が起こると、日本人は、その場所にたたりを起こした神をまつってきました。水害が起こると、水害を引き起こした水の神をまつり、疫病が流行ると、疫病をまき散らした疫病神(御霊・ごりょう)をまつりました。日本人がわざわざ「たたり神」をまつってきた理由はどこにあるのでしょうか。

私たち現代人は神について考えるとき、大黒様(だいこくさま)のような恵みをもたらす良い神、貧乏神のように人々を貧乏にする悪い神というように「善」と「悪」で考えがちです。しかし本来神は、人間にとって良い面と悪い面の両方をお持ちなのです。例えば太陽や水の働きを司る神は、豊かな農作物をもたらしますが、同時に干ばつや水害をもたらします。神は恵みをくださるだけではありません。恵みをくださる神は同時にたたりも引き起こすのです。

私たちの先祖が、火山の噴火した場所に火の神をまつったのは、火山を噴火させる力のある神は当然、噴火を鎮める力もあると考えたからです。洪水があった場所に水の神を、疫病が流行った場所に疫病神をまつったのも、それらの神も当然、その災害を鎮めるだけの力があると信じてきたからです。こうした神の性格をよく知っていた昔の人は、そこにあえて、たたりを起こした神をまつり、その神の悪い面を封印し、良い面を引き出すために神事を行って、秩序の回復をはかってきたのです。

過去に災害が起こった場所に神社が多く建てられているのは、こうした理由からです。ですから、神社の社名やまつられているご祭神に注意をはらうということは防災の上からも大切なことなのです。古い地名も同じです。一昨年、土砂災害に見舞われた広島市安佐南区の八木地区。あの辺りはもともと蛇落地悪谷(じゃらくぢあくだに)という名前だったそうです。蛇とは水害のことです。古い地名を大切にしなくては悲劇が繰り返されます。

地震を鎮める要石(香取神宮)
地震を鎮める要石(香取神宮)

ところで、古代、地震の神というのは存在しませんでした。では、地震が多い地域ではどのような神をまつったのか。それは、それぞれの土地の神をまつり防ごうとしたようです。

倒壊前に阿蘇神社
倒壊前の阿蘇神社

関東から四国を通り、九州まで続いている日本最大級の断層に「中央構造線(ちゅうおうこうぞうせん)」があります。この断層をたどっていくと、奇妙なことに、伊勢の神宮をはじめ地震を抑えているといわれる「要石(かなめいし)」がある千葉の香取神宮と茨城の鹿島神宮、長野の諏訪大社など日本有数の神社が鎮座しています。今回の地震で拝殿と楼門が倒壊した熊本の阿蘇神社もこの断層の上にあります。昔の人は、これら有力な神を総動員することで、大地震を鎮めようとしたのかも知れません。

神のもつ良い面と悪い面のうち、良い面を引き出すために行われる神事。神と自然と人間が共存し、秩序を保って暮らしていくために神事はあるのです。

そして、半年間の罪や穢れを祓い清める神事が、来月行われる「夏越大祓(なごしのおおはらい)」です。この神事に参加して、祓戸大神(はらえどのおおかみ)がもつ強力な祓いの力をいただかれ、心も身体も清めて、心新たに残る半年間、清々しく、明るく、元気に過ごしていっていただきたいと思います。

第18号 平成28年5月26日

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