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稲荷神社について

権禰宜 香川匠

 はじめまして、今回社務日誌を担当します香川匠と申します。速谷神社には令和三年から奉仕しています。よろしくお願いいたします。

《初めに》

速谷神社の境内にある稲荷神社
速谷神社の境内にある稲荷神社

 当社の社殿の東側に境内社の「稲荷神社」があります。五穀豊穣や商売繁昌のご利益があり、毎月の月初めをはじめ多くの参拝者が訪れます。この神社には、「宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)」という神様がお祀りされています。
 ところが先日のこと、この神社の側に立つ看板には神様のお名前が書かれているのですが、それを見た参拝者の方が「お稲荷さんに祀られているのは、おキツネさんではないのですか」と質問されてきました。何を隠そう私も大学生の頃までは「お稲荷さん=キツネ」だと信じていました。実は違うのです。今回はいい機会ですので、改めて「お稲荷さん」について皆様と一緒に勉強していこうと思います。

《「お稲荷さん」の愛称で親しまれる稲荷神社、その総本宮は?》

伏見稲荷大社HPより引用
伏見稲荷大社HPより引用

 稲荷神社は、全国に約三万社あり、広島県内にも九十一社あります。その総本宮が千本鳥居で有名な京都の「伏見稲荷大社」です。宇迦之御魂神がお祀りされ、「宇迦」は穀物・食物の意味、「御魂」は神霊を表し、「稲に宿る神霊」ということになります。
 伏見稲荷大社の起源は、『山城国風土記』に求めることができます。そこには、《お餅で作った的に弓を射ったところ、お餅が白鳥になって飛んでいき、降り立った伊奈利山の三ヶ峰に稲が実ったため「イナリ」という社名になった》とあります。
 また伏見稲荷大社の社記には、《元明天皇の和銅4年2月壬午の日に、この三ヶ峰に神を祀ったところ、五穀が大いにみのり、蚕(かいこ)から多くの繭(まゆ)が取れ、百姓は豊かになった》とあります。そしてこの神を祀った日こそが二月の初午の日と伝えられ、全国の稲荷神社では、この日にあわせて「初午祭」を行われます。

《お稲荷さんとキツネの関係は?》

 さて稲荷神社にとってキツネは、熊野神社の烏や八幡神社の鳩のように、神様のお使いをする「神使(かみのつかい、しんし)」とされています。
 キツネが神使として選ばれたのは、ご祭神が穀物の神であることと深く結びついています。日本人には古くから「山の神、田の神」への信仰があります。この信仰は、春になると山の神が山から里へ降り、田の神となって稲の生育を見守り、秋になって収穫が終わると山へ帰って山の神となるというものです。
 実はキツネも、農作の始まる初午の頃から収穫の終わる秋頃まで人里に姿を見せ、田の神が山へ帰られる頃に山へと戻っていきます。「田の神、山の神」と同じ時期に姿を見せるため、キツネが神使とされるようになったようです。

《油揚げが大好物?》

 また、おキツネさんといえば油揚げがすぐに思い浮かびますが、なぜでしょうか?実は諸説ありますので、一部ご紹介したいと思います。
 ①昔は稲刈りのとき一部の稲を刈らずに、神様へのお供えとして残しておく習慣があったそうです。そして山から里に降りてきたキツネがその場所に隠れ、人が近づくとそこから飛び出してくる。その姿をみて、穀物の神のお使いと信じたという説があります。
 ②また神へのお供えといえば五穀、つまり稲穂や豆ですから、豆を加工した油揚げでも構わないと昔の人が考えたという説があります。何と言っても油で揚げているものは高カロリーですからご馳走です。神様へお供えにはご馳走がふさわしいということで油揚げとなったという説です。
 いずれにしても日本人の神への感謝の心が詰まっています。ちなみに油揚げにお米をいっぱい詰めたものを米俵に見立てお供えしたところから、稲荷寿司を「お稲荷さん」と呼ぶようになったそうです。

 改めて調べてみると、五穀豊穣の神様ということもあり、特に農家の方から厚く信仰されているのだと感じました。皆様も食べ物が当たり前にある現代ではありますが、「食」に対する感謝を忘れることなく日々をお過ごし頂ければと思います。

第25号 令和6年2月18日

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